退職代行を利用して退職したことだけを理由に、退職後に損害賠償を請求されるとは限りません。一般的な無期雇用の従業員が、法律上認められた方法で退職し、会社の物を壊したり機密情報を持ち出したりしていなければ、退職代行を使ったことだけで損害賠償責任が発生するとは考えにくいです。
ただし、退職の経緯や在職中の行為によっては、会社から請求を受ける可能性があります。請求されたことと、実際に損害賠償を支払う義務があることは別なので、請求の根拠と証拠を確認することが重要です。
退職代行を使っただけで損害賠償を請求される可能性は低い
退職代行は、本人に代わって退職の意思を会社へ伝えるサービスです。退職代行を利用したこと自体は、会社の財産を壊した、契約に違反したといった損害の原因には通常なりません。
無期雇用の従業員は、原則として退職の意思表示から2週間が経過すると退職できます。会社の承認がなければ退職できないという仕組みではありません。
もっとも、雇用契約の種類や退職の方法によって扱いが変わるため、すべてのケースで2週間後に退職できると決めつけることはできません。
会社が損害賠償を請求するには根拠が必要
会社が損害賠償を求めるには、従業員に契約違反や故意・過失のある行為があり、その行為によって具体的な損害が発生したことを示す必要があります。
たとえば、単に「突然退職されて困った」「引き継ぎが十分でなかった」という事情だけで、直ちに高額な損害賠償が認められるとは限りません。会社側は、どの行為が問題なのか、どのような損害が発生したのか、金額はいくらなのかを具体的に説明する必要があります。
就業規則や雇用契約書に「退職したら違約金を支払う」と書かれていても、実際に発生した損害とは関係なく、あらかじめ違約金を決めておくことは法律上制限されています。ただし、従業員が別の違法行為をして実際の損害を発生させた場合まで、責任を免れるわけではありません。
退職後に損害賠償を請求されやすい主なケース
退職代行の利用ではなく、退職前後の具体的な行為が問題になることがあります。次のようなケースでは、会社から請求を受ける可能性があります。
- 会社のパソコン、スマートフォン、鍵、制服などを返却しない
- 顧客名簿、営業資料、設計データ、社内情報などを持ち出す
- 会社のデータを削除・改変する
- 在職中に不正な経費精算や横領をしていた
- 秘密保持義務や競業避止義務に違反する
- 有期雇用契約の期間途中に、正当な理由なく一方的に辞める
- 引き継ぎをしなかったことにより、具体的で証明可能な損害が発生した
ただし、これらに該当しそうに見えても、会社の主張だけで支払い義務が確定するわけではありません。契約内容、行為の具体的な内容、損害との因果関係などを個別に確認する必要があります。
無期雇用と有期雇用では退職の扱いが異なる
退職後の損害賠償リスクを判断する際は、雇用契約が無期雇用か有期雇用かを確認してください。
| 雇用契約 | 退職の基本的な考え方 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 無期雇用 | 原則として退職の意思表示から2週間で退職できる | 就業規則の手続き、退職日、未返却物、引き継ぎの状況 |
| 有期雇用 | 契約期間の途中で辞める場合は、無期雇用とは異なる扱いになる | 契約期間、途中退職の理由、契約書の内容 |
有期雇用でも、やむを得ない事情がある場合や、契約期間が1年を超える契約で一定の条件を満たす場合など、途中退職が認められることがあります。契約書の内容だけで判断せず、退職した時点の事情を確認することが必要です。
退職代行業者が会社と交渉した場合は別の問題になる
退職の意思を伝えるだけなら、退職代行業者が本人の使者として対応する形が一般的です。一方で、未払い賃金、退職日、退職条件、損害賠償の減額などについて会社と交渉する行為は、法律上の資格が問題になることがあります。
退職代行を利用したことによって従業員が会社へ損害賠償を負うという意味ではありませんが、退職代行業者とのやり取りが適切だったかは確認が必要です。会社から金銭請求や法的な主張を受けた場合、交渉を任せられるのは弁護士や、一定の条件を満たす労働組合などに限られる場合があります。
会社から請求書や内容証明が届いたときの対応
請求書や内容証明郵便が届いても、書面が届いた時点で損害賠償の支払い義務が確定するわけではありません。まずは請求の内容を確認し、すぐに支払いを約束したり、事実と異なる説明をしたりしないようにしてください。
- 請求書、内容証明、メール、メッセージを保存する。
- 請求された金額、支払期限、損害の内容、根拠となる契約や規則を確認する。
- 退職代行との契約内容、会社とのやり取り、雇用契約書、就業規則を保管する。
- 会社の物を返却していない場合は、返却方法を記録に残して対応する。
- 高額な請求、脅すような文面、訴訟や支払督促に関する書類がある場合は、早めに弁護士へ相談する。
裁判所から訴状や支払督促が届いた場合は、会社からの請求書とは異なり、放置すると不利益になる可能性があります。記載された期限を確認し、期限内に対応してください。
退職前後に損害賠償トラブルを避けるためにすること
退職代行を利用する場合でも、会社の物や情報を適切に扱い、退職に関する記録を残しておくことが大切です。
- 会社のパソコンや鍵など、借りている物を一覧にする
- 返却日、返却方法、発送記録を残す
- 会社のデータや顧客情報を私物の端末・クラウドに保存しない
- 退職代行に伝えた内容と、会社から届いた連絡を保存する
- 秘密保持や競業避止に関する規定があれば内容を確認する
引き継ぎについては、退職代行を利用したからといって、会社の業務を無制限に続けなければならないわけではありません。ただし、手元にある資料や担当業務の状況を整理し、可能な範囲で返却や連絡を適切に行うことは、トラブルの予防に役立ちます。
退職代行後の損害賠償は「請求された理由」で判断する
退職代行を利用して退職した後に損害賠償を請求される可能性はあります。しかし、退職代行を利用したことだけで、直ちに損害賠償を支払うことになるわけではありません。
判断のポイントは、無期雇用か有期雇用か、退職の手続きに問題があったか、会社の物や情報を適切に扱ったか、会社が具体的な損害と金額を示しているかです。請求を受けた場合は、請求書の内容と退職時の資料を確認し、必要に応じて法律の専門家へ相談してください。







